アトリエハーロー体験記   その9



<「日本人」と奏法の探求>

ホルンを志しこれを習得しようと日々たくさんの人々がいろいろな試みを行って います。インターネットの普及によってネット上でもホルン奏法についての意見 交換や体験談が活発になされています。しかし、ホルン奏法をめぐっての真摯で 勤勉なアプローチにも日本人である特徴的側面が影響してしまっているという興 味深い話しです。

A(筆者).その日に最初に吹き始める時(ウオームアップ)が音を出す機構を 再認識する機会であるとの捉え方、口を決めるのでは無くて、吹いた音から次の 音への移動感覚がその日の以前はどんな感じだったのかを思い出す積み重ねが自 然なホルンを吹く為の体作りに寄与していることを実感しました。ただ、ウオー ムアップの段階とオケや合奏体で要求されたことをこなす段階との間がどうして もつながらない気がしてならないのです。素彫りの音をもっと整える部分が別途 いるように思うのですが、この点はいかがでしょうか。
K(木村氏).コントロール系を体感して実際へと導き出すのは日本人の仕事の しかたなのです。そういう感じ方をするあたりは荒川さんもどうやら普通の日本 人をやっている様です。これ悪口では無くて大事な勘所です。
A.西洋人となにか根本的にアプローチが違うのでしょうか。
K.ホルンは西洋文化ですが、普通の日本人とは何も西洋人の真似が必要だと言 ってはいないつもりで、自分のオリジナリティーに感心が無い人という意味で言 っています。、努力とか誠実とかは日本人をしているつもりです。しかし分析力 は特にウィンナホルンを上手に吹く西洋人は優れていますからそこは学び取らな ければ成らないと痛感した事がありました。奏法とは全員が持つオリジナルなも のなのだと理解してしまえば良いと思うのです。
A.各人のオリジナルですかぁ。うーん。オリジナルに不安があって「これでい いのだろうか」「本当はこうではないかもしれない」「他の人はどうしているの だろう」という方向に思考が回りがちなのは確かなようです。
K.そこが「日本人」(笑)。奏法を考える際に「正しい奏法とはどんな吹き方 か」と考え多くの人がそのやり方に注目してしまいます。ですからアドヴァイス を受けても説明される言葉に降り回されてしまい初めに必要な単純な見本の模倣 について理解しません。同じ様にやって見て同じ様な音がしなかった、何がいけ ないのか、とやって行くのは誰でも同じく出来るのですが、その処に自分の意見 (オリジナリティー)を持たないと人に質問も出来ないという事に成ってしまい ます。
A.西洋人プレイヤーは個々人の優れた分析力から独自のオリジナル奏法を開発 してしまう?。
ウイーンの学生達はどうでしょうか。ウイーンフィルを目指す優秀な人も中には いるとおもいますが。
K.この話は殆ど全てウィーンで見たものなのですが、ウィーンでのレッスンを 見学していると非音楽的とも思えるような演奏がウィンナホルンの特性を打ち出 す事で音楽のまとまりを付けて行くというプロセスに成っています。とても多く の人の間で共通していて、そして絶対的に違う自分だけのものが存在します。そ の部分が個性とか特徴とか癖とか言われるもので、先生方全員が苦労するところ なのです。癖タイプが似た生徒には説明が通り易いですが、少し違っただけで困 難な壁に突き当たりギブアップするのです。諦められた生徒の方は挫折します が、ここが最初の関門で、チャント通過する生徒がいるのです。
A.そういう中から将来ウイーンフィルメンバーにもなりうる奏者が輩出されて いくのですね。
K.奏法とは、息を管の中に吹き込むと言う完全に共通した処から始まりかなり 多くの範囲で共通する方法ですが、それらの行動を取った時に感じる動き方は人 が違う分だけ各人のそれは違い、他人には説明できないといえる程にその表現は 難しいのです。片っ端に試行錯誤して自ら選んで行き些細な現象を膨大な分量し なければ成らないと覚悟の上の話なのです。やって行くしか無い、上手く言う方 法なんてものは無い。
A.「これでいいのだろうか」「本当はこうではないかもしれない」「他の人は どうしているのだろう」と思考せずにオリジナルを探求していく、そしてそれに 自信を持つということですね。
K.本質的には自信ではなく責任です。自分に合うものは自分しか知らないので すから自分の吹いた結果にどんな音が出たかは自分の責任なのですヨ。自分の意 見を意識すると見本やアドヴァイスを素直に模倣する楽しさが解ってきます。い ろいろ苦労があるのは当然で細かな苦労は買ってでもする。自分ではするべき事 はしていると自分で決めると見失うのです。
A.……。
K.(笑)精神的な面にも触れますが、いずれにせよ出来れば良いのです。精神 の為の精神的な話は無くて、演奏という技術とはと話していますから気楽にイメ ージチェンジをして下さい。荒川さんとの話では、単純明快に、こうしたらこう 成る、こう変えたらこう成った、と技術の話を掘り下げることをして行きたいと 思います。ここん処宜しく。




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